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慶應スタートアップエコシステム形成の一翼を担いたい

~慶應での出会いが私の人生を良き方へ変えてくれたから~


芦澤 美智子さん

横浜市立大学国際商学部 准教授

メンター三田会 学術会員


経歴

慶應義塾大学卒業(経済学学士、経営学修士、経営学博士)

KPMGグループで公認会計士として会計監査、M&A財務監査等に従事

慶應ビジネススクールにてMBA取得

産業再生機構、アドバンテッジパートナーズにて企業変革に関わる

現在、横浜市立大学国際商学部准教授、慶應義塾大学大学院経営管理研究科非常勤講師を務める

これまでに上場企業3社およびスタートアップの社外役員、国や横浜市の各種委員も務める



女子校で身についたリーダーシップ

雙葉学園という女子校に通っていました。女子校には女子校のよさがあって、文化祭や体育祭などの行事のリーダーはすべて女子です。「女子でもリーダーシップを取れる」との感覚は中高で身につきました。大学は慶應義塾大学経済学部に進学しましたが、一転して女子はマイノリティでした。私も雰囲気に飲まれてリーダーではなくサポート側に回っていたのですが、「なんか違うな、もっとできるよなぁ」という違和感はありました。



ゼミで「社会のリーダーになる」ことを考えるようになった

振り返ってみると、慶應は私に、人生を変えるほどの大きな影響を与えてくれました。特にゼミでの経験が、今の私の土台になっています。

私が所属していたのは島田晴雄先生(労働経済学)のゼミでした。島田先生はとても熱い先生でした。「慶應に来たということは、世界を作るリーダーになれる、いやリーダーになる責務があるんだよ」と語るのです。私にとっては、島田先生の言葉や与えてくださる機会の一つ一つがとても新鮮で、一気に世界が広がった感覚がありました。そしてこの時から「自分が社会のリーダーになる」ことを考えるようになりました。


同期や先輩後輩とはグローバルな視点で政治経済について語り合う日々でした。ゼミ生の家に泊まりこんで湾岸戦争について議論したり。理論について学ぶのはもちろんですが、島田先生は「いま」の生きた学問を扱っていて、学生と真剣勝負で対峙してくださいました。「学問は面白い」「学問は役に立つ」さらには「学ぶとはよく生きることそのもの」という気持ちはこの時に芽生え、今の研究者キャリアの土台となっています。


最近、周りの人から「芦澤さんはどうしてそんなに慶應のことが好きなの?」とよく聞かれます。その答えは明確で「慶應によって私の人生がより良いものに変わったから」です。慶應での日々に心から感謝しています。



資本主義社会で生きる力を身につけたKPMG時代

ファーストキャリアで選んだKPMGには約5年いたのですが、入社をして3つの良かった点があります。

1つめは、グローバル企業におけるリーダー経験を早いうちに積めたことです。KPMGはグローバルな会計事務所なので、海外大企業の日本支社などがクライアントに多くありました。また2年目から現場リーダーの立場で仕事ができました。社会人として「自分で何とかする」という姿勢が身についたのは大きかったです。

2つめは、資本主義社会における基礎力が身についたことです。会計監査は、会社にとっての健康診断のようなもの。数字を読んで、会社の経営状態を理解するという力が若いうちに身についたのはものすごくよかったですね。

3つめは、「主体性をもってキャリアを積み重ねる」という感覚がつかめたことです。この事務所は転職する人が多く、キャリアには多様な積み重ね方があること、それは自分の主体的な選択によって決まるものだとの感覚が身に付きました。

これらが後の、ファンドでの企業変革マネジャーや大学教員というキャリアに繋がっていると思います。



ビジネスの最前線を学ぶため、KBS(慶應ビジネススクール)へ

KPMGを辞めた最大の理由は、やってみたら数字が好きじゃないと気づいたことでした(笑)。会計士というのは、会社の「結果」としての数字が合っているかをチェックする仕事です。「自分が活動の主体として何かを変えていきたい」と思う私には、会計士の仕事が徐々にエキサイティングに感じられなくなっていきました。「自分自身が最前線で価値を生みたい」と思うようになったのです。それで次のキャリアに進むため、2001年にKBS(慶應ビジネススクール)に入学しました。



産業再生機構やアドバンテッジパートナーズで起業家精神を養う

産業再生機構は、私がKBSを卒業するころに新聞の1面を毎日飾るくらい話題になっていた会社でした。「自分自身が最前線で価値を生みたい」という思う中で、ご縁があり入社することになりました。

産業再生機構での経験は強烈なものでした。ここでの経験もまた人生を変えたと思っています。特に、今の活動のネットワークの根幹になっているのが、この時に同じ釜の飯を食った仲間たちです。

産業再生機構には、当時のトップエリートが集まっていて、しかも皆「この国を変えよう。自分たちなら変えられる」と思っていました。あの圧倒的な主体性は身を置いてみないとわからなかったと思いますね。

新しい世界を切り開く。そのために主体的にリスクを取りに行く。勝負したら絶対負けない覚悟を決める。「今ある課題を今解決しないといけない」と思って行動している。今振り返ると、自分のアントレプレナーシップ(起業家精神)の根幹は、あの時に仲間と研鑽しあったことで醸成されたのだと思います。

産業再生機構が解散したのちに入社したアドバンテッジパートナーズでも「自分たちで社会課題を解決する」という起業家精神が養われました。



海外MBAから帰国した友人達の影響でスタートアップに注目する

スタートアップに注目したきっかけは、産業再生機構やアドバンテッジパートナーズの仲間が、海外MBAから帰ってきたら「欧米のトップエリートは起業を目指している。起業家こそ社会変革をリードする最もカッコいい職業なんだよね」と言うのです。「おそらくスタートアップが世界的に大きなうねりになるのだろう」と感じ興味を持ちました。



出産を機に退職、自身への投資としてKBSに戻る

35歳の頃、母から「子供はいつ生むの?」と言われ、ふと我に返りました。それまで仕事のことしか考えていなかったので、子供のことはすっかり忘れていて(笑)。それで36歳の時に出産し退職しました。その後2年間専業主婦をやったんですが、まあ私には専業主婦は合わない合わない(笑)


そんなある時、夫が突然「みっちゃん(私のこと)、申し訳ないけど最近話が面白くない」と言い出しまして。もう大激怒ですよ!!こっちはキャリアを捨てて一日中赤ん坊の世話をしてるのに、面白くないとは何事か!と。でも冷静に考えてみると「今の私は確かに私らしくないな」と気づいたんです。


そこで何とかしてキャリアに戻ろうと思いました。そんな時、KBSの先生にお会いし事情を話したところ「じゃあ大学に戻ってきたらどうか」と言っていただきました。「そんな道があったのか!」と気づき、子供が1歳の時に慶應の博士課程に戻りました。


私にとっては学ぶことは「投資」なんですね。会計士の勉強や、ビジネススクールや留学で、勉強への投資は必ずリターンが出せるとの自信がついていました。だから、博士課程への進学も「これは投資。後で必ずリターンを出そう」そう思っていました。


また、私自身が慶應義塾大学で良い師に会い、良い影響を受けていたというのもあり、その恩返しとして大学を働く場所にするのはよいと感じました。1歳児を抱えての大学に戻った背景にはそんな考えもありました。



※画像1:横浜の学生起業家サークル「YOXO(よくぞ)カレッジ起業部」の顧問をしています(慶應の学生起業家も支援しています)



スタートアップエコシステムをどう実装するか

現在私は、スタートアップが生まれる循環、エコシステムを、日本にどう実装していくかに関心があり、研究を続けています。

スタートアップエコシステムという概念は世界的にも注目されています。これを日本でどう実現するか。そこでは「産学官連携」が必須になってきます。私の考える「研究」とは、パソコンの前で論文を読みデータを分析するだけでなく、社会実装までを含んでいます。私自身は民間経験も長いし、実務界でトップレベルのネットワークを築いているので、産学官連携を「私がリードして実装する」という主体性は、他の研究者よりも強いと思います。


残りのキャリアを通じて社会にインパクトを与えたいですね。やるべきこと/できることをやって次世代につなげたいです。島田先生の教えである「社会のリーダーとしての責務」という意味もありますが、今はそうやって社会変革の最前線に立つことがエキサイティングだと思えます。

「自分の人生がこんな楽しいものになると思ってなかった」と感謝しながら、今後も社会にインパクトも与える研究者人生を歩みたいです。


2022年秋から1年間、スタンフォード大学に客員研究員として在籍します。日本では2013年頃から第4次ベンチャーブームがおこり、特に東京スタートアップエコシステムはかなり成長してきています。Startup Genome と Global Entrepreneurship Network (GEN)が発表した「Global Startup Ecosystem Report 2022年版」では、東京は12位までランキングをあげています。さらにここから先は、世界各都市のスタートアップエコシステムとの連携が成長の鍵を握ると考えています。世界に活動範囲を広げられたら、資金も市場も格段に大きくなります。スタンフォード大学を中心とする、シリコンバレーのエコシステムをつぶさに研究し、いずれ東京との架け橋の一端を担いたいと思っています。


※画像2:シリコンバレーと東京を繋ぐネットワーク



女性のリーダーを増やしたい

また、「ダイバーシティ・イノベーション」という概念にも注目をしています。多様性、その中でも特にマイノリティの視点を取り入れることで、イノベーションが加速するという考え方です。日本でも女性の社会経済参画が増えるとイノベーションが進むはずです。私自身が社会経済参画の最前線に立つことを意識しています。リーダーとして切り開いていく、そしてそれが楽しいことだと発信すれば、次世代女性の参画が増えるでしょうから。



メンター三田会には起業家を生み出すネットワーク構築と文化醸成を担って欲しい

メンター三田会はポテンシャルが高いと感じています。

「慶應だから、三田会だからできる」ものがあると思います。慶應出身の経済・社会のリーダーは多く、慶應出身者が日本社会を先導しています。場合によっては世界をも先導している。また慶應出身者はただ数多くいるだけでなく、「慶應」への帰属意識がありますよね。福澤先生の教えがその支柱になっていることも大きいです。「社会実装してこそ学問」という実学の教え、産学連携の土台となる「半学半教」の精神が今でも共有されています。起業家を輩出する・支援する文化が醸成しやすいと考えています。


しかしながら慶應には未だ、起業家を連続的に輩出する、支援するエコシステムができているとは言い難い状況です。スタートアップエコシステム形成に必要な要素は3つあり、それは「制度の整備」「ネットワーク構築」そして「起業文化形成」です。メンター三田会は、起業家を支援する「ネットワーク構築」と、起業を前向きにとらえる「起業文化形成」を主導できるポテンシャルがあると思っています。


また、第3次、4次ベンチャーブームの中で成功した起業家が慶應にはたくさんいます。次なる起業は、Web3.0の分野だったり、大学発ベンチャー(ディープテック系)が中心だと言われています。慶應にはそういった分野で活躍しそうな優秀な研究者や学生がたくさんいます。また、産業界で様々活躍する大企業の人や、弁護士や会計士等のプロフェッショナルもたくさんいます。


先輩起業家/支援者と起業家予備軍が繋がり、互いに刺激し感化し合う、そういう環境があるといいですよね。メンター三田会には、そんなコミュニティになることを期待しています。そして私も「慶應にスタートアップエコシステムを作る一翼を担いたい」。慶應での出会いと気づきが私の人生を良き方へ変えてくれましたから、恩返しとして、慶應の発展に貢献したいと思います。



※画像3:10代のアントレ教育プログラムを立ち上げました


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