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【対談】メンター三田会は地方創生にどのような貢献ができるのか?

  • 執筆者の写真: mentormitakai2016
    mentormitakai2016
  • 9月30日
  • 読了時間: 8分

対談者:

·       田中 克徳 (メンター三田会副会長/慶應義塾大学政策・メディア研究科特任教授 /長野大学客員教授)

·       星野 尉治 (域産官学共創機構代表理事/地方創生三田会理事 /農水三田会理事・幹事長/   メンター三田会会員)

·       石島 知  (株式会社ことびと代表取締役 /メンター三田会会員) 2年前に長野県茅野市に移住し、現地で地域活性化に取り組んでいる。

田中氏(左)、星野氏(中央)、石島氏(右)
田中氏(左)、星野氏(中央)、石島氏(右)

司会:

池松 邦彦 (メンター三田会理事/タイミー監査役/Zip Infrastructureアドバイザー)

池松氏
池松氏

開催趣旨

人口減少や高齢化が進む地方において、それぞれの地域が持つ資源や魅力を活かし持続可能な社会を築くために、産業振興、人材育成、移住・定住の促進、子育て環境の整備、デジタル技術の応用などの様々な「地方創生」の取り組みが行われています。スタートアップや新規事業開発の支援に強みを持つメンター三田会は、「地方創生」の分野でも何か貢献ができるのではないかと考えられます。特に地域企業の創出や再生、地域の未活用資源の活用、ファイナンスや人材育成などにおいて、課題意識やノウハウを持っている会員も少なくないと思われます。以上のような背景から、「メンター三田会は地方創生にどのような貢献ができるのか?」をテーマに座談会を実施しました。「地方創生」という喫緊の課題に対して私たちがどのような貢献ができるのか、その道筋を探ることを目的としています。

 

私たちが地方創生に関わる理由について

池松:本日は「メンター三田会は地方創生にどのような貢献ができるか?」というテーマでお集まり頂き、有難うございます。地方創生は日本の大きな課題ですが、スタートアップや新規事業開発の支援に強みを持つメンター三田会が、これまであまり取り組んでこなかった分野でもあります。本日は皆さんの知見から、地方創生への貢献の道筋を探っていきたいと思います。 まず、自己紹介を兼ねて、皆さんと地方創生との関わりについてお聞かせ下さい。最初に、田中さんからお願いします。

田中 :メンター三田会では副会長を務めております。キャリアの多くは三菱地所で「まちづくり」に携わってきましたが、都心部だけでなく地方の仕事にも関わってきました。慶應とは2004年のメンター三田会創立と、SFCのインキュベーションセンター立ち上げに当時非常勤の教員として関与するなど、まちづくりに加え社内新規事業やイノベーション創出の領域を歩んできました。現在は大学で「地域イノベーション」、平たく言えば「新事業を生み出すまちづくり」を専門に研究・実践しています。

池松:有難うございます。続いて、地方創生三田会の理事も務められている星野さん、お願いします。

星野 :星野です。私もメンター三田会と、立ち上げメンバーでもある地方創生三田会に所属しています。元々はDNP(大日本印刷)でマーケティングやクリエイティブなどに従事していましたが、SFCの大学院で学んだ後に自身でも仲間とスタートアップを起業してからは、スタートアップ支援や新規事業開発に軸足を移しました。その中で、静岡や千葉での地方創生プロジェクト、空き家対策関連の事業などに関わった経験があります。現在は主に鹿児島県の離島中山間地域で、教育的な観点から地方創生を進める活動をしています。

池松:多彩なご経歴ですね。最後に、2年前に東京から長野県茅野市に移住された石島さん、お願いします。

石島 :石島です。妻と共に立ち上げた「森と、ピアノと、」という、長野県の森の中に建つ1日ひとり限定のアートスペースを運営するため、2年前に八ヶ岳・茅野へ移住しました。新卒ではソニー株式会社に入社し、海外マーケティングを担当。その後、医療・ヘルスケア×IT領域で新規事業の立ち上げに携わりました。立ち上げた事業は、医療分野で事業を展開するシミックグループ(当時・東証一部上場)へ売却し、その後は子会社の社長として約3年間経営を経験しました。昨年末に退職し、今年1月に長野県茅野市で株式会社Kotobitoを設立。「世界中で、面白き人と、コトを起こす」をミッションに、ゼロから事業をスタートしています。これまでは一つの事業を深く掘り下げてきましたが、現在はプロデューサーとして医療・アート・宇宙・ホテルなど多様な分野で挑戦する方々を支援し、自社事業の立ち上げも進めています。地方創生についても、地域の皆さんから学びながら日々奮闘中です。


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なぜ今、地方創生なのか? - 課題の本質

池松:皆さんの多様なご経験が、まさに今日のテーマを深く掘り下げる上で心強いです。では本題に入ります。皆さんが現場で感じている地方創生の課題意識からお聞かせいただけますか。田中さん、如何でしょう。

田中:地方創生の政策は驚くほどたくさんあるのですが、試しにAIに整理してもらうと30年前から掲げられている施策も多数あります。議論が繰り返され、成果に結びついていないとの指摘が各所であるのが実情です。「実行」段階は何倍もの時間とエネルギーが必要になります。政策を並べ、合意形成することが目的化してしまい、いざ実行する段階の兵站(ロジスティクス)やオペレーションの具体的な話がすっぽり抜け落ちている。これが非常に大きな問題だと感じています。「担い手」の話が主役になるべきと考えています。

池松:実行が伴わない、と。星野さんは、特に人口問題に着目されていますね。

星野:はい。私が活動する鹿児島県のある市は、高齢化率がほぼ45%。若者は高校を卒業すると東京などに出て行ってしまい、生産年齢人口がどんどん減っています。よって自治体の税収も減り、消滅可能性都市という現実が迫っています。この「東京一極集中」の構造が最大の課題です。

池松:茅野市で奮闘されている石島さんから見て、現場のリアルな課題とは何でしょう?

石島:「問題がある」ことは、もうみんな分かっているんです。一番の課題は、「実行する人」が圧倒的に足りないこと。そして、地域と外部のリソース(東京の資金や知見など)を繋いでプロジェクトを推進する「プロデューサー」のような存在がいない。機会は山ほどあるのに、それを「面白い、やろう!」と動く人が少ないのが現状です。

メンター三田会の貢献の道筋

池松:なるほど。実行、人口、担い手という3つの課題が見えてきました。では、我々メンター三田会は、具体的にどう貢献できるでしょうか。

田中:漠然と議論するのではなく、地域の核となる「先駆的な優良企業」と組むことです。やる気のある経営者の方と一緒になって、地域に残りたい、移住したい若い世代の皆さんと高付加価値な事業を生み出し、魅力的な雇用を創出することに的を絞って進めるなど、0→1だけでなく、1→10、10→100にする共創の仕組みづくりが重要です。私が長野で進めている教育研究プロジェクトも、大学をプラットフォームに、地域の有力企業等と連携し、学生や若手社会人が事業創造に挑戦する実践的な取り組みになります。

石島:田中さんのご意見には大賛成です。地域の経営者は、外の力を本当に求めています。メンター三田会の方々には、ぜひ伴走者としてプロデュース機能を発揮してほしい。そしてもう一つ、「地方から直接、海外を目指す」という視点を提供していただきたい。我々の後ろから「やれ、やれ!」と背中を押してくれる存在がいると、非常に心強いです。

星野:海外も重要ですが、その手前の「ブランディングやマーケティング」も我々が貢献できる点だと思います。「一粒1000円のライチ」のように、ブランディングで付加価値を劇的に高めることができれば、生産者の収入も向上し、地方離れに歯止めをかけられるかもしれません。また、そもそも地域に戻ってくる人材を育てるために、高校生への愛着教育、起業家教育、キャリア教育や探究教育など、地元に帰ってきやすい滞在拠点の整備なども重要なアプローチだと考えています。

「世界」を視野に入れた新たなモデル

池松:「海外」、「ブランディング」というキーワードは非常に面白いですね。もう少し具体的にお聞かせいただけますか。

田中:例えばスペインの美食の街サンセバスチャンのように、地域が一丸となって知的財産を管理し、グローバルブランドを確立している例があります。日本の伝統産業、特に発酵産業などは単に美味しいということではなく、その精神性や文化性などを含め世界に誇れるものですが、その価値を伝えきれていない。売り上げ規模で1000億円を目指すような世界観が必要だと思います。

星野:まさにその通りで、佐渡の酒蔵が東京を介さず直接海外で成功した事例もあります。ECを使えば販路は世界に開かれている。そのノウハウを支援できるはずです。

石島:それに加え、海外から優秀な人材を地方に呼び込むという視点もあります。地方は生活コストが安いといった魅力があり、働き手不足に悩む地元企業と海外人材をマッチングさせる事業は大きな可能性があります。自分たちの課題は自分たちで解決する、という気運を醸成したいですね。

 

結論:明日から何をすべきか?

池松:非常に刺激的な議論でした。最後に、我々が踏み出すべき「次の一歩」について、一言ずついただけますか。

石島:フィールドも、やる気のある人も、ここにいます。是非メンター三田会の皆さんと一緒に汗をかき、後押しをいただきながら、具体的な課題解決を実行していきたいです。

星野:地域の推進役となる情熱を持った人と、我々のような外部の人間が同じ目線で活動できる「場」を作っていくこと。それがオープンイノベーションを生む鍵だと思います。

田中:大きな会議体で議論するのではなく、こうしたテーマに情熱のある経営者の方とテーマを一つに絞り、まずは小さな成功事例を本気で作っていくことに取り組んでいく。その実績が、次の動きに繋がっていくと思います。

池松:有難うございました。今日の議論では、メンター三田会が地方創生に関わる大きな可能性を示唆して頂きました。地方創生を進めていくにあたっては、総論ではなく具体的なテーマと実行者を見出し、そこに私たちが伴走支援していくこと。つまり主役はその地域に暮らし、地域の変革を担う実行者の方々であり、また短期間で成果が出るものではないため、伴走者である私たちもその「場」に参画し、中長期的な視点と継続的な関与が必要であると思います。この座談会をきっかけに、メンター三田会として具体的なアクションを始めていきたいと思います。

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